長い地下道を抜けて、寺社の外まで出てみれば、そこに数人の男女が待ち構えていた。

「あ、あなた達!」

慌てて駆け寄ってくる。

肩につけている紋章で、彼らが天照館高校の教員である事を認識したペンタファングの一同は僅かに身構えていた。

「酷い怪我だわ、早く移送の準備を」

「君達、無事か、死亡者及び著しく体機能を損なっているものはいるか」

「怪我をしているもの優先だ、早く!」

構わず、搬送の指示を交し合う彼らを見て、害意の無いことだけは判断することが出来た。

こちらの人間は全員ボロボロだ。生徒達に殆ど怪我は無いけれど、彼らは精神的に衰弱しきっている。

自分達とそう大差ないだろう。

早く、と指示されるので、薙はまず月詠生達の輸送を先に行ってくれるよう天照館の教員に掛け合った。

「俺達は後でいい、それより非戦闘員の保護を優先してくれ、多分、何らかの呪がかけてあるから、まずはその解除と、彼らのケアを」

「了解したわ、特殊討魔班、あなた達は?」

「俺は現状において総指揮の権限を預けられている、まずはメンバーの治療を、頼む」

「わかりました」

天照館の人間に、物を頼むことになるとは思わなかったと、僅かに苦笑が漏れる。

今はまだ精確な事など何も分からない。

けれど、たぶん、崇志も、凛も、伊織も―――同じ事を考えているのだろう。

月詠学院、いや、森学院長は、ペンタファングの廃棄処分を決定した。

そのための任務であり、そのための支援部隊だったのだろう。

腹の底から苦いものが込みあがってくる。

それは、やけに熱く、内側をどす黒く染めていくような感情だった。

掌を強く握り締めていると、再び寺社の方が騒がしくなった。

振り返ると、教員に紛れて天照館高校の制服がチラチラと見える。

薙の鼓動が、大きく跳ねていた。

自分自身そのことに驚きながら、俄かに落ち着きなく彼らの中に視線を探らせると、一人の女性教員に付き添われて俯きがちに歩いてくる姿が見えた。

―――豊だ。

ふらり。足が一歩踏み出す。

声に出して、名前を呼ぼうとして、彼の姿はすぐに数名の教員に囲まれてしまった。

動悸が異様に早まっている。

掌がぬるついて、舌の奥のほうが乾いていくようだった。

さっきまでかろうじて冷静に働いていた思考は完全に停止して、薙はもう一度豊の姿を見ようと瞳を凝らす。

人が途切れて、横顔が見えた。

豊は、虚ろに視線をさまよわせている。

覇気の無い、まるで精神を病んでいるかのような姿だった。

薙はゴクンと喉を鳴らした。

「あき、つ」

声がかすれる。

「秋津!」

必死の呼び声に、ビクンと豊の肩が跳ねた。

ゆっくりとこちらを振り返る、その目が、薙の視線と重なる。

「っつ」

薙はそのまま動きを止めていた。

豊の瞳から、つうと、一筋の―――

「こちらへ、早く!」

教員の姿に紛れて、彼の姿はまた見えなくなってしまう。

薙も呼ばれていた。

月詠生は最後に薙を残すだけのようだった。君も早くこちらへ来なさいと、煩わしい声が遠くで騒ぎ立てている。

薙は、その場から動く事ができなかった。

久々に見つけた豊の姿。

けれど、あれは。

まるで、悪夢の中で捕らわれているかのように、周囲の喧騒が徐々に小さくなって、やがて薙の聴覚は一切の音を拒絶していた。

誰かが腕を引いた。

なすがままにされて、薙は引きずられていく。

「秋津」

乾いた唇が、震える声で名前を呼ぶ。

「どうして―――」

搬送車のドアが閉まり、車が走り出した。

騒動が周囲に広がる前に、天照館の回収部隊は出雲の地を後にしていた。

 

続く